高次脳機能障害者支援法が持っている意味は、こういう“生活のつまずき”を、本人の努力不足として放置しないための土台をつくることです。2026年4月1日の施行に向けて、支援の形が少しずつ変わっていきます。
「支援があるはずなのに届かない」を、法律でちゃんと対応出来る仕組みに。
高次脳機能障害は、外から見えにくいことが多いと言われます。記憶、注意、段取り、感情のコントロール、言葉の出にくさ。日によって波もあります。
この“見えにくさ”は、本人に二重の負担をつくります。ひとつは「困っているのに理解されない」負担。もうひとつは「理解されないから説明し続けなきゃいけない」負担です。
今回の法律の核は、ここを社会の側で受け止め直すことにあります。ポイントは「社会的障壁」という言葉が、定義として入っていること。困りごとの原因を、本人の内側だけに閉じず、制度・慣行・周囲の見方・情報の渡し方まで含めて“障壁”として扱う設計です。
つまり、「支援してあげる」ではなく、「障壁を減らして当たり前に暮らせるようにする」という方向に、軸足が置かれています。これは、支援の温度を少し変えます。本人の尊厳を守る言い方が、制度の言葉として後ろ盾になるからです。
どの地域でもつながれるようにする仕掛けは「相談の中核」
施行後、都道府県は中核となる機能を担う枠組みを持ちます。法律上は、都道府県知事が一定の業務を担える機関等を指定する(または都道府県が自ら担う)形で、「高次脳機能障害者支援」が位置づけられます。
ここが大事なのは、単に窓口が増えるという話ではないことです。相談だけで終わらず、次の支援につなぐための“交通整理”まで含まれている点に意味があります。
想定されている役割は、ざっくり言うと次のような流れです。
本人や家族が相談する → 状況を整理する → 必要に応じて専門的支援につなぐ → その地域の医療・福祉・教育・労働の関係者をつなぐ → 支援に関わる人へ研修や情報提供を行う。
ここで効いてくるのが、「切れ目なく」という考え方です。医療やリハビリの段階で途切れやすかった人が、生活支援や就労支援に移るときに迷子にならないようにする。支援の“引き継ぎミス”を減らす意図が読み取れます。
さらに、都道府県が専門的な医療機関の確保に努めること、地域の協議会を置くよう努めることも書かれています。支援の場が点で散らばるのではなく、線でつながることを目指す構造です。
「これからどうなる?」を、期待と現実の両方で見ておく
法律ができたとき、いちばん知りたいのはたぶんここだと思います。「結局、生活は変わるの?」って。
結論から言うと、変わる可能性はあります。ただし、地域差がすぐにゼロになるとは限りません。ここは正直に言っておきたいです。
理由はシンプルで、制度は“箱”ができても、中身(人・予算・連携の手間)が追いつかないと動きません。新法は、支援センターの役割をはっきりさせ、情報提供や研修、連絡調整を位置づけました。これは予算化しやすい言葉でもあります。現場の工夫が、自治体の事業として組み立てやすくなる。ここが期待ポイントです。
一方で、現実のハードルも見えています。
・専門人材の確保(研修だけで急に増えるわけではない)
・医療と福祉の言葉のズレ(同じ日本語でも意味が違うことがある)
・「相談」から「生活の調整」へ踏み込む難しさ(家族支援も含めて)
ただ、この法律には“効かせ方”がもうひとつ用意されています。政府が支援状況や施策について資料を作成し、随時公表するという仕組みです。これは、静かな圧力になります。「やってます」と言うだけでは済みにくくなる。数字や体制が見えるほど、地域の遅れや不足も見えます。結果として、改善の議論が起きやすくなるはずです。
そして、施行後おおむね3年を目途に、施行状況を検討して必要な措置を講ずる、という条文があります。ここが「次の3年」の意味です。2026年4月から始まって、2029年頃までに何が機能して何が詰まったのかが整理され、制度の手直しや予算の厚みづけにつながる可能性が出てきます。
やさしい専門パート:この法律でよく出てくる「社会的障壁」って?
用語定義:社会的障壁は、本人の特性そのものではなく、社会の側にある「事物・制度・慣行・観念など、生活や社会参加の邪魔になる一切」を指す考え方です。
誤解しやすい点:「障壁をなくす=本人が頑張らなくていい」という意味ではありません。むしろ、“頑張り続けないと生きられない設計”を減らして、力を出せる形に整える、という発想に近いです。
つまり今日のあなたには:「私が悪いのかな」と思い始めたときに、いったん立ち止まって、「どの場面が障壁になってる?」と分解していい、という許可が出る感じです。分解できると、相談もしやすくなります。
「働く」の話に引き寄せて考えると、見えてくること
高次脳機能障害に限らず、精神・発達の特性がある人も、「うまくできない」が積み重なると、自己否定が強くなりやすいと思います。忘れる、混乱する、言葉が出ない、疲れが抜けない。外からは小さく見えるのに、本人の中では日常の土台がぐらぐらする。
この法律が就労支援まで書き込んでいるのは、「働く」は気合いの問題じゃなく、環境と支援の設計の問題だ、と認めているからだと私は受け取っています。
もしあなたが、今の生活で「相談するほどでもないけど、ずっと困ってる」が続いているなら、いきなり答えを出さなくて大丈夫です。まずは“翻訳”からでいい。
たとえば、相談に行く前に、メモをこの順番で作るだけでも違います。
・困る場面(いつ/どこで)
・困り方(何が起きる)
・助かったこと(少しでもラクになった工夫)
スマイルラボのような就労継続支援B型の場では、「作業」そのものだけじゃなく、ペースの作り方や、言葉の整理、途中で助けを呼ぶ練習ができます。イラストやWeb、アクセサリー制作のように“作って形にする”仕事は、工程が見えるぶん、段取りの練習にもなりやすい。今日できる範囲を見つけて、少しずつ積み重ねる。その積み重ねが、制度が動くときにも自分を守ります。
法律は、明日いきなり人生を変えてくれる魔法ではありません。でも、困っている人が「困っている」と言いやすくなる土台にはなります。2026年4月からの動きは、静かだけど、たぶん長く効いてくる。焦らず、情報との距離を調整しながら、必要なときに“つながれる”形を一緒に確保していきましょう。
